大谷翔平の決断を想う

先日、初めて肛門科に行った。

 

もう書き出しから恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。〝肛門〟という文字のインパクトはそれほどまでに強い。ご存知の通り〝肛門〟はう○この排出口であり、普通に生きていればなかなか他人に見られる様な場所ではない。

 

年に数回だけ切れ痔になる程度のわんぱくだった我が肛門が、この半年くらいで急にグレてバリバリの不良になり最近は排泄する度に少し引くくらい出血するようになってしまった。しかもずっとむず痒い違和感が纏わり付いている。

これは一度診てもらった方がいいと思い病院に行く事にした。

 

病院にも色々ある。耳鼻咽喉科、歯科、内科、泌尿器科、小児科etc..。

その中でも肛門科は未開の地だ。というか未開のままでいたかった。知らずに死にたかった。

だが我が肛門はヤンキー真っ盛りでこのままではヤクザになるかもしれないのだ。一刻も早く先生に更生して貰わなくては。

〝肛門科〟で検索し、非常に丁寧で柔らかい印象のHPの病院を見つけた。家からもそんなに遠くない。

「よし!ここにしよう!」と決断し向かう。午後の診療スタート時間ぴったりに到着し、入るともう待合室には男性が2名座っていた。同じ悩みを待つ同志だが、もちろん目線を合わせる訳ではなく静かに呼び出しを待っている。

受付で初診である事を伝えると診察の為の記入表を渡された。

 

「出血はありますか?」

「排泄は1日どれくらい?」

「便の硬さは?」

 

などなどA4用紙の裏表にビッシリと質問がある。一蘭の記入用紙が可愛く感じるほどの質問量に真摯に答えペンを置き、受付に戻す。

 

すると〝17〟番の番号札を渡された。

呼び出しは名前ではなく、番号らしい。名前ではなく番号での呼び出しは匿名性を高めるので病院側の配慮なのだ。つくづくデリケートな部分だと感じ、呼び出しを待っているとスポーツ専門誌のNumberが目に入る。

表紙には大谷翔平が笑顔で両手を挙げている。そういえば大谷の背番号は17だ。二刀流でメジャーでもルーキーイヤーから活躍したスターから写真越しに勇気を貰う。

 

10分ほど経つと「17番の方ー。」と呼び出された。ドキドキしながら診察室へ。

60歳を過ぎた頃のおじいちゃん先生と、30歳くらいのアニメ声の看護師さんが迎えてくれた。丸イスに座り自分の言葉でおじいちゃん先生に現在の状況を伝える。

 

おじいちゃん先生は

「そうですか。じゃあ早速診てみましょう。そこのベッドでズボンを下ろして横になって下さい。」

と優しく促してくれた。

看護師さんがタオルで自身の目を隠しながら、寝るポジジョンの指示を出してくれる。お尻を丸出しにしながら体を丸めて横になる。当たり前だが、かなり恥ずかしい。

ポジションが決まると看護師さんが

「先生、お願いします。」と声をかける。

僕はもう緊張と不安と恥ずかしさで目を閉じている。しかし反対に肛門は先生に向けてしっかり開いている。

先生がお尻に触れ肛門あたりを触ると小さな声で何かを喋ってきたが、声が小さくて全く聞き取れない。

 

次の瞬間、肛門に緊張が走る。

体中に力が入り勝手に固まってしまう。

 

「リラックスして深呼吸して下さい」

とアニメ声で呼びかけられるも、この状態ではリラックスなんか無理だ。肛門あたりをグリグリされ異物が入ってきている感じがする。肛門は筋肉を硬直させて異物の侵入を防いでいる。

30秒ほどの格闘が終わると肛門にヒリヒリ感だけが残り、体の緊張は解かれた。

おじいちゃん先生は座薬を入れてくれたのだ。しかし肝心の予告が全く聞こえなかった為、何の覚悟もなく座薬は僕の中に入ってきてしまった。 

 

ズボンを上げ、おじいちゃん先生の前に座りなおす。おじいちゃん先生は症状は深刻ではない事を伝えてくれたが

「治療の選択肢は2つあります。1つは薬で治す方法。これでも治るとは思いますがいずれまた再発する可能性は高いです。そしてもう1つは手術をして不必要な肛門周りの筋肉を一部切除する事です。簡単な手術で午前中に行えば昼には帰れます。そして再発の可能性はほぼなくなるでしょう。」と宣告してきた。

 

薬による治療か。

手術による完治か。

 

初めての肛門科で唐突に突きつけられた二択。

〝カレー味のう○こ〟と〝う○こ味のカレー〟という幼稚な二択が頭を過ぎる。

しかし今回は肛門ありきの話なので、う○こはもはや例え話ではない立派なリアルなのだ。

 

先生の前で二択に悩んでいる刹那、ふと待合室で見た大谷翔平がフラッシュバックした。

大谷はメジャーでのルーキーイヤーの昨シーズンに肘を壊してしまった。その時に医者に提案された治療は二択だった。

 

薬による治療か。

手術による完治か。

 

大谷は結果的に手術を選んだ。後のインタビューで大谷はこう答えている。

「手術は嫌だし不安で避けたかった。でもまたいつ再発するか分からないまま野球をしたくない。僕は何の不安もない状態で思いっきり野球がしたいんです。」

 

〝思いっきり野球がしたい〟

 

こんなにピュアな答えが世の中にあるのか。

170km台の真っ直ぐなピュアだ。

 

その真っ直ぐなピュアが悩んでいる僕に問う。

 

「お前はどうしたいんだ?」

「どうなりたいんだ?」

「その場しのぎか?」

「それとも勇気を持って立ち向かうのか?」

 

 

 

〝思いっきりう○こがしたい〟

 

 

 

僕の答えは大谷と一緒でシンプルだった。

大谷に負けないくらいピュアな答えだ。

170km後半は出てるだろう。

 

 

大谷に背中を押されて僕は来週お尻にメスを入れられます。大谷ありがとう。